リースバック後の修繕費は誰が負担?設備故障・原状回復・リフォームの線引きを解説

リースバックで家を売って住み続けたあと、給湯器が壊れたら誰が直すのか。屋根から雨漏りしたら、退去するときの壁の傷は。「所有者は業者なのだから業者が払うはず」と思っていると、契約書の一文で話が変わります。

先に結論をお伝えすると、リースバック後の修繕費は法律の原則では貸主(業者)負担ですが、実際の契約では借主負担とする特約が付いていることが多く、どこまで払うかは契約書次第です。ただし、法律上すべてを借主に負わせることはできません。

この記事では、修繕を建物本体・設備・消耗品の3つに分けた負担区分表と費用目安、借主負担特約が無効になり得る法律ルール、退去時の原状回復、住みながらリフォームする方法、築古戸建ての10年修繕費シミュレーション、契約前の交渉ポイントをまとめました。監修は、訳あり不動産を中心に1,500件以上の相談を解決してきた宅地建物取引士の桐生辰宏です。

契約書に「修繕は借主負担」と書いてありました。屋根が壊れても自分で払うんですか?

その一文だけで屋根まで負担させるのは、法律的にかなり無理があります。何がどこまで有効なのか、順番に整理しましょう。

目次

リースバック後の修繕費は誰が負担?結論は「契約書の特約次第」

リースバックの賃貸借契約は、法律上は普通の賃貸と同じ借地借家法・民法のルールに従います。まず原則を確認し、そのうえでリースバック特有の事情を見ていきます。

法律の原則は「貸主(所有者)が修繕する」

民法606条は、貸主に賃貸物の修繕義務を定めています。家を貸している以上、住める状態に保つのは貸主の仕事、という考え方です。通常のアパートで給湯器が壊れたら大家が交換するのは、この条文が根拠になっています。例外は、借主の不注意や故意で壊した場合。この場合は貸主に修繕義務はありません。

リースバックでは借主負担の特約が多い理由

ところがリースバックの契約書には、「建物および設備の修繕は借主の負担とする」といった特約が入っていることが珍しくありません。業者側の言い分はこうです。売主が長年住んで設備の状態を把握しているのは売主自身であり、家賃を周辺相場より抑えている分、修繕は自分で見てほしい。

もう1つの理由は業者の収益構造です。買取価格を市場価格の6〜8割に抑え、家賃で利回りを確保し、退去後に転売する。この計算に「保有中の修繕費」を織り込むと利回りが下がるため、借主に負わせて計算から外しているわけです。修繕特約は、売却価格や家賃と同じく、業者の採算設計の一部だと理解してください。

リースバックの基本的な仕組みは、以下のピラー記事で整理しています。

負担区分が曖昧なまま契約するとどうなるか

「修繕は借主負担」の一文だけで、何がどこまで含まれるのかが書かれていない契約書が問題です。給湯器の交換は誰が払うのか、雨漏りは、外壁のひび割れは。壊れてから業者に問い合わせると「特約のとおり借主様のご負担です」と返され、その時点で相談する先もない。国民生活センターに寄せられるリースバックの相談にも、こうした修繕費のトラブルが含まれています。

修繕を3つに分けて考える|負担区分と費用目安の一覧表

「修繕費」とひとくくりにすると話が進みません。建物本体・付帯設備・消耗品の3層に分け、さらに退去時の原状回復を加えた4区分で整理すると、誰が払うべきかが見えてきます。

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区分具体例法律の原則リースバックの典型的な特約費用目安
①建物本体屋根・外壁・構造・基礎・給排水管・シロアリ・雨漏り貸主負担貸主負担とする業者が多いが、借主負担と書く契約もある屋根塗装40〜80万円、外壁塗装100〜150万円、給排水管30〜100万円
②付帯設備給湯器・エアコン・キッチン・浴室・トイレ・インターホン貸主負担借主負担とする特約が多い給湯器15〜40万円、エアコン10〜20万円/台、浴室50〜150万円
③消耗品・小修繕電球・パッキン・網戸・鍵の電池・排水口の詰まり特約で借主負担が一般的借主負担数百円〜数万円
④退去時の原状回復壁紙・床の傷、たばこのヤニ、ペットの損傷借主の故意・過失分のみ借主負担。通常損耗・経年劣化は貸主負担特約で借主負担を広げる契約もある壁紙1㎡1,000〜1,500円、ハウスクリーニング3万〜8万円

ポイントは、①建物本体まで借主負担にしている契約は「典型的」ではなく、要注意の部類だということです。②の設備が借主負担なのはリースバックでは標準的なので、そこは受け入れたうえで金額を見積もっておくのが現実的な対応になります。

築古ほど「建物本体」の割合が大きくなる

築10年のマンションなら、10年間で発生する修繕はほぼ②の設備交換だけです。ところが築35年の戸建てでは、外壁塗装や屋根、給排水管といった①建物本体の修繕が現実の問題になります。同じ「修繕は借主負担」の特約でも、築年数によって背負う金額がまるで違う。契約前に自分の家がどちらに近いかを見極めてください。

マンションの場合は、共用部の修繕は管理組合の修繕積立金でまかなわれ、所有者である業者が負担します。管理費・修繕積立金の扱いは以下の記事で解説しています。

借主負担特約はどこまで有効?知っておきたい3つの法律ルール

「契約書に書いてあるから全部払うしかない」と諦める前に、特約の限界を知っておいてください。ここで紹介する3つのルールは、契約書に書かれていなくても適用されます。

ルール①貸主の修繕義務は特約で変えられる(民法606条)

まず前提として、民法606条の修繕義務は「任意規定」です。当事者が合意すれば、借主が修繕を負担する特約は有効に結べます。だからこそリースバックの借主負担特約は法的に成立しますし、給湯器やエアコンの交換を借主が負う契約は、それ自体が違法というわけではありません。

ルール②大規模修繕まで借主負担にする特約は無効になり得る(消費者契約法10条)

ただし、特約の範囲には限度があります。業者と個人の契約には消費者契約法が適用され、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされます(10条)。裁判例でも、賃貸借の修繕特約は「小修繕を借主に負担させる」趣旨にとどまり、貸主の修繕義務そのものを免除するものではない、という判断が示されてきました。

屋根の葺き替えや外壁の全面補修、給排水管の交換といった建物の価値を維持するための大規模修繕まで借主に負わせる特約は、無効と判断される可能性が高いのです。「修繕は借主負担」の一文を根拠に屋根の修理代を請求されたら、この点を指摘して交渉してください。

ルール③借主が自分で修繕できる条件(民法607条の2)

2020年の民法改正で、借主の修繕権が明文化されました。修繕が必要なことを貸主に通知したのに相当な期間内に修繕されない場合、または雨漏りのように急を要する場合、借主は自分で業者を手配して修繕できます。かかった費用は必要費として貸主に請求できます(民法608条)。

貸主負担の範囲に入る修繕なのに、業者が「検討します」のまま放置している。そんなときは、通知した日付と内容を書面やメールで残したうえで、この条文を根拠に自分で動いて構いません。

修繕トラブルで残しておく記録
  • 故障・不具合の写真と発生日
  • 業者への通知(メールや書面。電話なら日時と担当者名をメモ)
  • 修理業者の見積書と領収書(自分で手配した場合)
  • 契約書の修繕条項のコピー

退去時の原状回復はどこまで払う?国交省ガイドラインの考え方

リースバックでも、いつかは退去する日が来ます。買戻しをしない限り、退去時には通常の賃貸と同じく原状回復の話が出てきます。ここも「何十年も住んだ家だから全部きれいにして返せ」とはならないので安心してください。

通常損耗・経年劣化は貸主負担が原則

民法621条と国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」により、原状回復とは「借主の故意・過失や通常の使い方を超えた使用で生じた損傷を元に戻すこと」と定義されています。普通に暮らしていて生じる壁紙の日焼け、家具の設置跡、床の細かな傷といった通常損耗や、年数による劣化は借主の負担ではありません。

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借主負担になるもの貸主負担になるもの
たばこのヤニ・臭い日照による壁紙・床の変色
ペットによる柱や壁の傷家具の設置による床のへこみ
飲み物をこぼして放置したカーペットのシミ冷蔵庫の背面の電気ヤケ
引越し作業で付けた壁の傷設備の寿命による故障
掃除を怠った水回りのカビ・水垢次の入居者のためのハウスクリーニング(特約がなければ)

原状回復を借主に広げる特約が有効になる3つの条件

通常損耗まで借主負担とする特約も、まったく無効というわけではありません。ガイドラインでは、①特約の必要性と客観的・合理的な理由があること、②借主が通常の義務を超えた負担を負うことを認識していること、③借主がその負担に合意していること、の3つを満たす場合に有効としています。「原状回復費用は借主負担」とだけ書いた契約書では、この要件を満たしているとは言いにくいのが実情です。

敷金なしの契約では退去後に請求が来る

リースバック業者の中には、敷金・礼金を取らない会社もあります。手元資金が減らないのは助かりますが、その代わり退去時の原状回復費用は敷金から相殺されるのではなく、後日請求書として届きます。請求を受けたら、どの箇所にいくらかかるのか、算定根拠は何かを必ず確認し、通常損耗分が含まれていないかチェックしてください。

住みながらリフォームしたいときのルール

「売却して家賃を払うのだから、住みやすく直したい」と考える方は多いのですが、所有者が業者に変わった以上、勝手にリフォームはできません。

所有者(業者)の承諾が必要で、費用は借主負担

壁紙の張り替え程度でも、契約上は貸主の承諾が求められるのが一般的です。キッチン交換や間取り変更のような工事は、承諾が得られたとしても費用は全額借主負担。さらに退去時には「元に戻して返す」か「そのまま引き渡す」かを業者が決めます。

有益費償還請求は特約で放棄させられていることが多い

民法608条2項では、借主が家の価値を高める工事をした場合、退去時にその費用(有益費)を貸主に請求できるとしています。ただしこの権利は特約で放棄できるため、リースバックの契約書には「借主は有益費の償還を請求しない」と書かれていることがほとんどです。つまり、自費でリフォームしても、退去時に1円も戻ってこない前提で考える必要があります。

買戻しを予定している方は例外です。買い戻せば自分の家に戻るので、リフォーム費用は無駄になりません。買戻しに必要な権利については以下の記事を参照してください。

売却前にリフォームしても買取価格では回収できない

「売る前に直しておけば高く買ってもらえるのでは」という質問もよく受けます。答えはノーです。リースバックの買取価格は、退去後の転売想定価格から業者のコストと利益を引いて決まるため、売主が100万円かけて浴室を新しくしても、買取価格が100万円上がることはまずありません。売却価格の決まり方は以下の記事で解説しています。

築古戸建ては「家賃+修繕費」で総支払額を計算する

リースバックの家賃相場を調べる方は多いのに、修繕費まで含めた総支払額を計算する方はほとんどいません。築古戸建てで修繕を借主負担にする契約なら、ここを飛ばすと家計が読めなくなります。

築35年戸建ての10年修繕費シミュレーション

築35年の木造戸建てにこれから10年住む場合、建物本体と設備で発生しやすい修繕を積み上げてみます。

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修繕項目区分10年以内に発生する可能性費用目安
外壁塗装建物本体高い(10〜15年周期)120万円
屋根塗装・部分補修建物本体高い60万円
シロアリ防除建物本体中(5年ごとの保証更新)25万円
給湯器交換設備高い(寿命10〜15年)30万円
エアコン交換2台設備高い30万円
水回りの小修理(水栓・便座・換気扇)設備高い30万円
合計約295万円

10年で約295万円、月に直すと約2.5万円です。家賃が月15万円なら、修繕費を借主が全額負担する契約では実質の住居費は月17.5万円。家賃の1〜2割に相当する金額が見えないところで上乗せされている計算になります。建物本体を貸主負担にできれば、この負担は約90万円(設備分のみ)まで減ります。

家賃そのものの相場と交渉方法は、以下の記事にまとめました。修繕費と合わせて判断してください。

契約前に確認する負担区分チェックリストと交渉のポイント

修繕費のトラブルは、契約前に負担区分を明文化しておけばほぼ防げます。契約書を受け取ったら、次の5点を確認してください。

修繕負担の契約書チェック5項目
  • 設備ごとの負担区分表が添付されているか。「修繕は借主負担」の一文だけなら、区分表の作成を依頼する
  • 建物本体(屋根・外壁・構造・給排水管)が貸主負担と明記されているか。ここが借主負担なら見直しを求める
  • 設備の「経年劣化による故障」の扱い。借主の過失によらない故障まで借主負担にしているか
  • 原状回復の範囲。通常損耗・経年劣化を除く旨の記載があるか
  • 修繕が必要になったときの連絡先と手順。誰に、どう連絡し、誰が業者を手配するか

交渉の落としどころは「設備は借主、建物本体は貸主」

すべてを貸主負担にしてほしいと求めても、業者は応じにくいものです。現実的な線引きは、給湯器やエアコンなど日常使用で消耗する設備は借主、屋根・外壁・給排水管など建物の価値に関わる部分は貸主とする形。この区分なら業者側の採算も崩れにくく、借主側も消費者契約法の考え方に沿った内容になります。

契約期間や再契約条件と同じく、修繕負担も「言った・言わない」で揉めやすい項目です。契約書全体のチェックポイントは、以下の記事にまとめています。

負担区分を最初から整理する「リノベーション付きリースバック」という選択肢

築古の家で修繕負担がどうしても気になるなら、発想を変える方法があります。売却と同時に業者がリノベーションを行い、生まれ変わった家に住み続ける「リノベーション付きリースバック」です。

売却時点で屋根・外壁・水回りを業者側の費用で改修するため、10年修繕費シミュレーションで挙げた項目の多くが最初から発生しません。業者は再生後の価値を前提に転売を計画するので、修繕負担の押し付け合いになりにくい構造でもあります。再建築不可や借地権付きといった訳あり物件にも対応しているので、一般の業者に「修繕は全部そちらで」と言われた方は一度相談してみてください。

うちは築40年で、屋根も外壁もそろそろなんです。それでも売却時に直してもらえるんですか?

そういう家こそ向いています。直してから貸す前提で条件を組むので、住んでいる間の修繕負担が最初から整理できます。

リースバックの修繕費に関するよくある質問

リースバック後の火災保険は誰が入りますか?

建物の火災保険は所有者である業者が加入し、保険料も業者が負担します。借主は家財保険と、借りている家に損害を与えた場合に備える借家人賠償責任保険に加入するのが一般的で、契約の条件として加入を求められることがほとんどです。年間1万〜2万円程度が目安です。

給湯器が壊れました。まず誰に連絡すればいいですか?

契約書の負担区分にかかわらず、まず貸主であるリースバック業者(または管理会社)に連絡してください。借主負担の契約でも、業者が提携先の修理業者を紹介してくれることがありますし、貸主負担の契約なら手配は業者の仕事です。連絡した日付と内容はメールなどで記録に残しておきましょう。

台風や地震で家が壊れた場合の修繕費はどうなりますか?

自然災害による建物の損害は借主の責任ではないため、原則として所有者である業者が負担し、業者が加入する火災保険や地震保険で対応します。ただし家財の損害は借主の家財保険の範囲です。契約書の修繕特約に「災害時を含む」といった記載がないか、念のため確認してください。

マンションの共用部分の修繕は誰が負担しますか?

エントランスや外壁、エレベーターなどの共用部分は、区分所有者である業者が管理組合に納める修繕積立金でまかなわれます。借主に直接の負担はありませんが、管理費と修繕積立金は家賃の計算に織り込まれているため、積立金の値上げが再契約時の家賃に反映される可能性はあります。

シロアリ被害や雨漏りが見つかった場合はどうなりますか?

シロアリ被害や雨漏りは建物本体の問題なので、原則として貸主負担です。借主負担の特約があっても、建物の構造に関わる修繕まで借主に負わせる内容は消費者契約法上無効と判断される可能性があります。発見したら写真を撮って速やかに業者へ通知し、放置による被害拡大の責任を問われないようにしてください。

まとめ|修繕費の負担は「建物本体は貸主、設備は借主」で線を引く

リースバック後の修繕費は、法律の原則では貸主負担ですが、実際の契約では設備の修繕を借主負担とする特約が一般的です。ただし屋根や外壁、給排水管といった建物本体の大規模修繕まで借主に負わせる特約は、消費者契約法により無効とされる可能性があります。契約前に負担区分表を作ってもらい、築古の家なら修繕費込みの総支払額で判断してください。

この記事のまとめ
  • 修繕費の負担は契約書の特約次第。法律の原則は貸主負担だが、設備は借主負担とする契約が多い
  • 建物本体・設備・消耗品・原状回復の4区分で考える。建物本体まで借主負担の契約は要注意
  • 大規模修繕まで借主負担にする特約は消費者契約法10条で無効になり得る。借主には自分で修繕する権利もある
  • 退去時の原状回復は故意・過失分のみ。通常損耗・経年劣化は貸主負担が原則
  • 築35年戸建てなら10年で約300万円の修繕費。家賃の1〜2割に相当するため総支払額で判断する

株式会社CLOUD HOMeでは、宅地建物取引士が1,500件以上の訳あり不動産を扱ってきた経験をもとに、売却時にリノベーションを行い修繕負担を最初から整理するリースバックをご提案しています。「うちの築年数だと修繕費はどれくらい見ておくべきか」という段階のご相談も歓迎です。

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