「業者に安く買われるくらいなら、子どもに買ってもらって住み続けられないか」。リースバックを調べるうちに、こう考える方は少なくありません。家が家族の手に残り、知らない業者との契約に不安を感じることもない。一見すると、いいことずくめに思えます。
先に結論をお伝えすると、親子間・親族間でもリースバックはできます。ただし、親が子どもに家を売ると、マイホームを売ったときの3,000万円特別控除が使えません。業者に売る価格と同じように相場より安く売れば、差額を贈与とみなされて贈与税がかかる可能性もあります。業者を使うリースバックにはない税金と価格のルールがあるのです。
この記事では、親子間リースバックと業者リースバックの違い、3,000万円控除が使えない相手の範囲、みなし贈与を避ける価格の決め方、子どもの側で注意すること、家賃と相続トラブルの防ぎ方、そして控除と「家を家族に残す」を両立する方法まで解説します。監修は、訳あり不動産を中心に1,500件以上の相談を解決してきた宅地建物取引士の桐生辰宏です。
本記事は2026年9月時点の税制をもとにした一般的な解説です。親族間の売買は個別の事情で課税関係が変わるため、実行前に税理士へご相談ください。

長男が「自分が買うから住み続けていいよ」と言ってくれています。業者に頼むより、そのほうが安心ですよね?



気持ちの面では安心ですが、税金では業者に売るより不利になることが多いんです。息子さんに買ってもらう前に、損得を数字で比べておきましょう。
親子間・親族間のリースバックは可能?業者リースバックとの違い
親子間リースバックは、子どもが親の家を買って所有者(貸主)になり、親はそのまま借主として家賃を払って住み続ける形です。仕組みは業者のリースバックと同じですが、買主が家族になることで条件が大きく変わります。
| 項目 | 業者リースバック | 親子間リースバック |
|---|---|---|
| 売却価格 | 市場価格の6〜8割 | 時価に近い価格が必要(安すぎると贈与とみなされる) |
| 親の3,000万円控除 | 使える | 使えない |
| 買主の資金 | 業者が用意 | 子どもが用意。住宅ローンを扱う金融機関は限られる |
| 家賃 | 業者の利回りで決まる(年6〜13%) | 家族で決められるが、相場から離れすぎると問題になる |
| 住み続けられる期間 | 契約の種類次第 | 家族の合意次第 |
| 家の行き先 | 退去後に業者が転売する | 家族に残る |
| 必要な専門家 | 業者が手続きを主導 | 司法書士・税理士に自分で依頼する |
家が家族に残ること、家賃や住む期間を柔軟に決められることが親子間リースバックの利点です。その代わり、税金・価格・資金の3つで、業者リースバックより手間とコストがかかります。リースバックの基本的な仕組みは、以下のピラー記事で整理しています。


親子間リースバックで使えない税の特例|3,000万円控除の対象外になる相手
自宅を売ったときの譲渡所得税は、居住用財産の3,000万円特別控除を使えばゼロになることが多く、業者リースバックでは大きな助けになります。ところが、この特例は売る相手によって使えなくなります。
使えない相手|配偶者・直系血族・生計を一にする親族など
| 売る相手 | 3,000万円控除 | 理由 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 使えない | 特例の対象外とされる相手 |
| 子・孫・親など(直系血族) | 使えない | 生計が別でも対象外 |
| 兄弟姉妹・甥・姪など | 生計が別なら使える可能性 | 生計を一にしている、または売却後にその家で同居する場合は対象外 |
| 自分や親族が経営する同族会社 | 使えない | 特例の対象外とされる相手 |
| リースバック業者(第三者) | 使える | 要件を満たせば適用 |
親子は直系血族にあたるため、子どもが別の家に住んで生計を分けていても3,000万円控除は使えません。一方、兄弟姉妹や甥・姪は、生計が別で、売却後にその家で同居しないのであれば、控除を使える可能性があります。「親族間の売買はすべてダメ」ではなく、誰が買うかで税額が大きく変わる点を押さえておいてください。
同じ理由で、所有期間10年超の家を売ったときの軽減税率の特例や、買換えの特例も、親子間の売買では使えません。
控除の有無で税額はどれだけ変わるか
20年前に購入した家(取得費1,200万円)を売る場合で比べてみます。譲渡費用は30万円と仮定しました。
| 項目 | 業者に売る(市場価格の7割) | 子どもに売る(時価) |
|---|---|---|
| 売却価格 | 1,750万円 | 2,500万円 |
| 譲渡所得(売却価格−取得費−譲渡費用) | 520万円 | 1,270万円 |
| 3,000万円控除 | 使える | 使えない |
| 譲渡所得税(所得税・住民税) | 0円 | 約258万円(税率20.315%) |
子どもに時価で売ると、親の手元に入る金額は業者より750万円多くなります。ただしその一部は税金として出ていき、原資は子どもが用意したお金です。家族全体で見れば、約258万円の税金が「家を家族に残すためのコスト」として上乗せされる計算になります。リースバックにかかる税金と控除の要件は、以下の記事で詳しく解説しています。


安く売ると「みなし贈与」になる|適正価格の決め方
税金を抑えようと、親が子どもに相場より安く売ると、今度は別の問題が出てきます。
「著しく低い価額」での売買は差額が贈与とみなされる
相続税法では、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額を贈与を受けたものとみなして贈与税を課すと定めています(相続税法7条)。たとえば時価2,500万円の家を1,000万円で子どもに売れば、差額1,500万円を子どもが親から贈与されたと判断される可能性があります。
業者リースバックでは市場価格の6〜8割という価格が当たり前ですが、これは第三者同士の取引だから成り立つ価格です。親子間で同じ割合を当てはめると、差額が贈与と判断されるおそれがあります。
適正価格の決め方|実務で使われる3つの方法
「何割なら著しく低い」という明確な基準は示されていません。実務では、次のような方法で価格の根拠を用意しておくのが一般的です。
- 不動産会社の査定価格。複数社の査定書を取り、その範囲内で価格を決める
- 路線価をもとにした価格。相続税評価額(路線価)は時価のおおむね8割とされるため、路線価÷0.8で時価の目安を出す
- 不動産鑑定士の鑑定価格。費用はかかるが、価格の根拠として最も説明しやすい
路線価そのままの価格で売買した事例で、著しく低い価額にはあたらないと判断した裁判例もありますが、個別の事情で結論は変わります。価格を決める前に税理士へ相談し、根拠となる資料を必ず残しておいてください。業者リースバックの価格がどう決まるかは、以下の記事で解説しています。


子どもの側で注意すること|資金・家賃収入・住宅ローン控除
親子間リースバックでは、買主になる子どもの側にも手続きと税金の負担が生じます。子どもに頼む前に、次の3点を一緒に確認してください。
購入資金|親族間売買の住宅ローンは組みにくい
金融機関は、親族間の売買への融資に慎重です。資金が本当に住宅の取得に使われるのか、価格が妥当なのかを確認しにくいためで、扱っている金融機関は限られます。しかもリースバックでは子ども自身が住むわけではないため、そもそも住宅ローンではなく、金利の高い投資用ローンの扱いになることもあります。子どもに十分な自己資金がないと、成立しにくいのが実情です。
家賃収入|子どもの不動産所得として申告が必要になる
親から受け取る家賃は、子どもの不動産所得になります。固定資産税や建物の減価償却費、修繕費などを差し引いた所得が一定額を超えると、会社員であっても確定申告が必要です。親子の間だからといって、家賃収入を申告しなくていいわけではありません。
住宅ローン控除|子どもが住まないので使えない
住宅ローン控除は、自分が住むための家を取得した場合の制度です。親子間リースバックでは、子どもは家を買っても住むのは親なので、控除の対象になりません。さらに、生計を一にする親族から買った家は、自分が住む場合でも控除の対象外とされています。
親子間リースバックの家賃はいくらにすべき?使用貸借という選択肢
家族だから家賃は安くていい、と考えがちですが、ここにも注意点があります。
周辺の賃貸相場に近い家賃にしておく
家賃を相場とかけ離れた金額にすると、税務上、家賃の一部が実質的な贈与ではないかと疑われる余地が生まれます。周辺の同じような家の家賃相場を調べ、その範囲内で決めておくと説明しやすくなります。業者リースバックの家賃は売却価格から逆算するため割高になりがちですが、親子間ならこの制約はなく、賃貸相場に合わせられるのは利点です。家賃の考え方は以下の記事で解説しています。


家賃ゼロなら「使用貸借」になる
子どもが家を買い、親には家賃なしで住んでもらう形は、法律上は「使用貸借」になります。親子間の使用貸借は、一般的に贈与税の対象とはされません。子どもに家賃収入がないので確定申告の手間もなくなります。ただし、使用貸借は借主を守る借地借家法の対象外で、親の立場は賃貸借より弱くなる点に注意してください。家族関係が変わったときに住み続けられるよう、使用の期間や条件を書面にしておくと安心です。
兄弟姉妹がいる場合の相続トラブルを防ぐ
親子間リースバックで最も揉めやすいのは、税金よりも兄弟姉妹との関係です。親の家が子どもの1人のものになるため、相続のときに他の兄弟から不満が出ることがあります。
安く売ると「特別受益」として相続で精算される
親が子どもの1人に家を相場より安く売った場合、その差額は相続のときに「特別受益」として扱われ、遺産分割で調整される可能性があります。差額が大きいと、他の兄弟が法律で保障された最低限の取り分(遺留分)を侵害されたとして、金銭での精算を求めることもできます。
家族会議と書面化で防ぐ
親が元気なうちに兄弟姉妹全員で話し合い、誰がいくらで買うのか、売却代金を親がどう使うのかを共有しておくことが、いちばんのトラブル防止策です。売買価格の根拠となった査定書と、話し合いの内容を書面に残しておくと、後から「不公平だ」と言われたときの説明材料になります。相続対策としてのリースバックの考え方は、以下の記事で整理しています。


控除と「家を家族に残す」を両立する方法|業者リースバック+子どもの買戻し
親子間リースバックの税金の不利を避けつつ、将来は家を家族に残したい。そんなときに検討できるのが、いったん業者にリースバックで売り、後で子どもが業者から買い戻すという組み合わせです。
第三者である業者への売却なので、要件を満たせば親は3,000万円控除を使えます。親はそのまま借主として住み続ける形です。
売買契約に買戻しの特約を付け、将来子どもが買い戻せるように取り決めます。誰が買い戻せるか、価格の算式、期限を書面に残すことが条件で、業者の同意が必要です。
子どもの資金準備ができたら、業者から家を買い戻します。相手は第三者なので、親族間売買に伴う価格や融資の制約を受けにくくなります。
注意したいのは、買戻しの価格が売却価格の1.1〜1.3倍になるのが一般的なことです。業者に1,750万円で売った家なら、買い戻すときは1,900万〜2,300万円程度になります。3,000万円控除で浮いた税金と、買戻しで上乗せされる金額のどちらが大きいかを比べて判断してください。買戻しに必要な権利と契約の注意点は、以下の記事で解説しています。


親子間リースバックと他の方法の比較
親の家を家族で支える方法は、親子間リースバックだけではありません。目的に合わせて4つの方法を比べてみてください。
| 方法 | 親が得る資金 | 税金の主な論点 | 家の行き先 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| 業者リースバック | 市場価格の6〜8割 | 3,000万円控除が使える | 業者(買戻し特約で家族に戻す道も) | まとまった資金が必要で、税負担を抑えたい |
| 親子間リースバック(賃貸) | 時価に近い価格 | 控除なし、子に家賃収入の申告 | 子ども | 子どもに資金があり、家を確実に残したい |
| 親子間売買+使用貸借 | 時価に近い価格 | 控除なし、家賃収入はなし | 子ども | 家賃のやりとりを避けたい |
| 売らずに生前贈与・相続 | なし | 贈与税または相続税 | 子ども | 親に資金の必要がない |
親がまとまった資金を必要としているかどうかが、最初の分かれ目です。資金が必要なら業者リースバックか親子間リースバック、必要なければ売らずに贈与や相続で家を引き継ぐ方法が候補になります。年金で家賃を払い続けられるかの目安は、以下の記事で確認できます。


親子間・親族間のリースバックに関するよくある質問
- 兄弟に家を売ってリースバックする場合も、3,000万円控除は使えませんか?
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兄弟姉妹は直系血族ではないため、生計を別にしていて、売却後にその家で同居しないのであれば、3,000万円控除を使える可能性があります。親子や配偶者への売却とは扱いが異なるので、要件を満たすかどうかを税理士に確認したうえで判断してください。
- 親の住宅ローンが残っていても、子どもが買い取れますか?
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子どもが支払う売買代金で親のローンを完済し、抵当権を抹消できれば可能です。売買代金がローンの残高に届かない場合は、差額を親が用意する必要があります。時価で売ることが前提になるため、残高を上回る価格を子どもが用意できるかが最初の確認点です。
- 親子間でも売買契約書や賃貸借契約書は必要ですか?
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必要です。所有権移転の登記には売買の事実を示す書類が求められますし、価格の妥当性や家賃の支払い実態を税務署に説明するうえでも、契約書と支払いの記録が欠かせません。家賃は現金の手渡しではなく口座振込にして、記録を残しておいてください。
- 親が亡くなったら、親子間リースバックの賃貸借契約はどうなりますか?
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借主である親が亡くなると、賃借権は相続人に引き継がれます。家の所有者が相続人の1人である場合は、その子どもが貸主と借主の立場をあわせ持つことになり、実務上は賃貸借契約を終了させるのが一般的です。同居していた家族がいる場合は、その後の住まい方を相続人の間で話し合っておく必要があります。
- 親子間リースバックにはどんな専門家への依頼が必要ですか?
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所有権移転登記は司法書士、価格の妥当性や譲渡所得税・贈与税の確認は税理士に依頼するのが一般的です。価格の根拠として不動産会社の査定書を取るか、不動産鑑定士に鑑定を依頼することもあります。業者リースバックと違い、これらの手配を家族で行う必要がある点は覚えておいてください。
まとめ|親子間リースバックは「家を残す価値」と「税金のコスト」を比べて選ぶ
親子間・親族間でもリースバックはできますが、親子では3,000万円控除が使えず、相場より安く売ればみなし贈与の問題が出ます。家を家族に残せる安心感と、税金や手続きのコストを比べて判断してください。控除を使いつつ家を残したいなら、業者リースバックと子どもの買戻しを組み合わせる方法もあります。
- 親子(直系血族)・配偶者への売却では3,000万円控除と軽減税率が使えない。兄弟姉妹は生計が別なら使える可能性
- 業者と同じ6〜8割の価格で売ると、差額がみなし贈与になるおそれ。査定書や路線価で価格の根拠を残す
- 子どもは購入資金の確保、家賃収入の確定申告が必要。住宅ローン控除は使えない
- 家賃は相場に近づけるか、家賃なしの使用貸借にする。兄弟姉妹とは事前に話し合い書面に残す
- 業者リースバック+子どもの買戻しなら、控除を使いつつ家を家族に戻す道がある
株式会社CLOUD HOMeでは、宅地建物取引士が1,500件以上の訳あり不動産の相談を扱ってきた経験をもとに、業者リースバックと親子間での売買のどちらが家族にとって有利か、手残りと税金の両面から整理するお手伝いをしています。買戻しを前提にした契約のご相談も歓迎です。










